本記事の内容
- grad(勾配)の定義、意味を理解する
- grad(勾配)の計算ができるようになる
定義
勾配とは、スカラー場 \( f(x,y,z)\) の \(x,y,z\) に関する偏微分を各成分とするベクトルのことです。
\(\rm{grad}\,\it{f}\) あるいは \(\nabla f\) と書き、次式で表されます。
$$ \rm{grad}\,\it{f} = \nabla f = \left(\frac{\partial f}{ \partial x}, \frac{ \partial f}{ \partial y} , \frac{ \partial f}{ \partial z} \right)$$
\(\nabla\) はナブラ(nabla), デル(del)などと呼ばれるベクトル演算子です。
例えば、\(f(x,y,z) = x + 2y + 3z\) の勾配は、\(\nabla f = (1,2,3)\) になります。
意味
\(\nabla f\) は以下のように解釈できます。
\(\nabla f\) の大きさ:スカラー場 \(f(x,y,z)\) の変化の大きさ
\(\nabla f\) の向き:スカラー場 \(f(x,y,z)\) の変化が最大となる向き
スカラー場の例として温度 \(T(x,y,z)\) を考えて、上記の解釈について考えてみましょう。

上図のように、近接した2点の温度
温度差は、1次近似を用いることで、以下で表されます。
$$
\begin{align}
\Delta T &= T(x+\Delta x,y+\Delta y,z+\Delta z) - T(x,y,z) \\
&= T(x,y,z) + \frac{\partial T}{\partial x}\Delta x + \frac{\partial T}{\partial y}\Delta y + \frac{\partial T}{\partial z}\Delta z - T(x,y,z) \\
&= \frac{\partial T}{\partial x}\Delta x + \frac{\partial T}{\partial y}\Delta y + \frac{\partial T}{\partial z}\Delta z \\
&= \nabla T \cdot \Delta \bm{r} \\
&= | \nabla T | | \Delta \bm{r} | \cos{\theta}
\end{align}
$$
ここで \(\theta\) は \( \nabla T \) と変位ベクトル \( \Delta \bm{r} \) のなす角です。
変位ベクトルの大きさ \( |\Delta \bm{r}| \) を一定とするとき、温度差 \(\Delta T\) が最大となるのは、\(\theta = 0^\circ\) のとき、すなわち、変位ベクトル \(\Delta \bm{r}\) の向きが \( \nabla f \) と等しくなるときです。
したがって、\(\nabla f\) はスカラー場 \(f(x,y,z)\) の変化が最大となる方向であることが分かりました。
イメージ
勾配のイメージをつかむため、温度 \(T(x,y,z)\) をスカラー場とした例を考えてみましょう。
下図のように、\(xy\) 平面のある点にろうそくを立てた時、温度の勾配はどのようになるでしょうか

ろうそくの炎に近いほど、温度は高くなるので、勾配は炎に向かう向きになると考えられます。
具体的には、等温面(温度が等しい曲面)に垂直な方向になります。
また、ろうそくに近いほど、勾配の大きさは大きくなります。
ろうそくから十分離れれば、その勾配はほとんどゼロになると考えられます。
例題
実際に勾配の計算を行ってみましょう。
例題1
スカラー関数 \(f(x,y,z) = 2yz\sin{x} + 3x\cos{y}\sin{z}\) の勾配 \(\nabla f\)
例題2
ベクトル \(\bm{r}=(x,y,z)\) の原点からの距離 \(r\) の勾配 \(\nabla r\)
参考文献など
- ファインマン・レイトン・サンズ(1969)『ファインマン物理学 III 電磁気学』(宮島龍興訳)岩波書店
- 安達忠次(1961)『ベクトル解析』培風館
- 予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」"【大学数学】grad(勾配)の意味【ベクトル解析】" Youtube <https://youtu.be/p7hEoWv7pp4> (参照日:2021年8月23日)