本記事の内容
- div(発散)の定義・意味を理解する
- div(発散)の計算ができるようになる
定義
ベクトル場 \(\bm{A}(x,y,z)\)を、以下のように定義します。
$$ \bm{A}(x,y,z) = (A_x(x,y,z), A_y(x,y,z) , A_z(x,y,z) ) $$
このとき、
$$\mathrm{div} \bm{A} = \nabla \cdot \bm{A} = \frac{\partial A_x}{\partial x} + \frac{\partial A_y}{\partial y} + \frac{\partial A_z}{\partial z} $$
を \(\bm{A}\) の発散といいます。\(\mathrm{div} \bm{A}\) はスカラーです。
意味
\(\mathrm{div} \bm{A}\) は以下のように解釈できます。
\(\mathrm{div} \bm{A}\) : 単位体積あたりの湧き出し量
\(\mathrm{div} \bm{A} < 0\) の場合は、吸い込まれる量があったことを意味します。
ベクトル場の例として、水の流れを表すベクトル場 \(\bm{A}\) を用いて、上記の解釈を考えてみましょう。
水の流れは、空間の各点で流れる水の量とその方向を決めることができるので、ベクトル場と例として用いることができます。
水の流れを表すベクトル場 \(\bm{A}\) は、単位時間、単位面積あたりの水量を表します。

上図のように、微小な直方体から湧き出る水量を考えます。
\(x\) 軸に垂直な平面1におけるベクトル場\(\bm{A}(x-\frac{\Delta x}{2}, y,z)\) の \(x\) 成分は、それぞれ以下のように表されます。
$$A_x( x-\frac{\Delta x}{2}, y,z )=A_x(x,y,z) - \frac{\partial A_x}{\partial x}\frac{\Delta x}{2}$$
同様に、平面2におけるベクトル場 \(\bm{A}(x+\frac{\Delta x}{2}, y,z)\) の \(x\) 成分は
$$A_x( x+\frac{\Delta x}{2}, y,z ) = A_x(x,y,z) + \frac{\partial A_x}{\partial x}\frac{\Delta x}{2}$$
で与えられます。
平面1は直方体に入る方向、平面2は出ていく方向なので、平面1,2から出ていく正味の水量は、面積 \(\Delta y \Delta z\) をかけることで、
$$ \left[A_x( x+\frac{\Delta x}{2}, y,z ) - A_x( x-\frac{\Delta x}{2}, y,z )\right]\Delta y \Delta z= \frac{\partial A_x}{\partial x}\Delta x \Delta y \Delta z $$
と表されます。
同様に、\(y, z\) 軸それぞれに垂直な側面を考えると、直方体から出ていく正味の水量は
$$\left( \frac{\partial A_x}{\partial x} + \frac{\partial A_y}{\partial y} + \frac{\partial A_z}{\partial z} \right) \Delta x \Delta y \Delta z = (\nabla \cdot \bm{A}) \Delta V $$
となります。ただし、\(\Delta V = \Delta x \Delta y \Delta z\) で、直方体の体積を表します。
この式は、直方体の正味の湧き出し量が、\(\nabla \cdot \bm{A}\) と直方体の体積 \(\Delta V\) の積で与えられることを意味します。
したがって、\( \nabla \cdot \bm{A} \) は、単位体積当たりの正味の湧き出し量を示すことが分かりました。
ここまでは、微小な直方体を考えましたが、有限の大きさの体積 \(V\) を持つ閉曲面からの湧き出し量はどのように表されるでしょうか。
結論は、閉曲面を微小な体積 \(\Delta V\) に分割したときの各湧き出し量の合計が、閉曲面からの湧き出し量になります。すなわち、体積積分を用いて、
$$\int_V \nabla \cdot \bm{A} dV $$
と表すことができます。
イメージ
発散のイメージをつかむために、身近なベクトル場を用いて考えてみましょう。
例: 水流
上記の 「div(発散)の意味」でも用いた水流で考えてみましょう。


左図は、海やプールの水中に、適当な閉曲面を取ったときを想定しています。
閉曲面に入る水の量と出ていく水の量は等しくなるので、その発散は 0 になります。
右図は、蛇口を含むような閉曲面を考えています。
この場合はどうなるでしょうか。
実は、この場合も湧き出し量は 0 になるべきです。
蛇口から水が出ているのだから、湧き出しが正になるというイメージがあるかもしれません。
しかし、水はどこからともなく湧き出したのではなく、配管の中を通っています。
実際、閉曲面と配管が交わる断面から水が流れ込んでいて、その流入量は、閉曲面から出ていく水の量と等しくなる必要があります。
なので、閉曲面の湧き出し量は 0 になります。
例: 光
ベクトル場として、光量を考えてみましょう。
ちなみに、光の流束は光束とよばれ、単位はルーメン(lm)です。

上図のように、豆電球を含むような閉曲面を考えてみましょう。
光は豆電球から周囲に放射されます。
したがって、閉曲面から出ていく光量はプラスになります。
仮に、閉曲面の外に別の光源があったとしましょう。
この場合でも、発散の値は変わりません。
閉曲面の外の光源について、閉曲面に入った光と出ていく光の差し引きで 0 になるためです。
例題
実際に発散の計算を行ってみましょう。
例題1
ベクトル場\(\bm{A} = (x+yz, y^2+z, z^2+xy)\) の発散 \(\nabla \cdot \bm{A}\)
例題2
ベクトル \(\bm{r}=(x,y,z)\) の原点からの距離を \(r\) としたとき、以下を求めよ。
$$\nabla \cdot \frac{\bm{r}}{r}$$
参考文献
- ファインマン・レイトン・サンズ(1969)『ファインマン物理学 III 電磁気学』(宮島龍興訳)岩波書店
- 安達忠次(1961)『ベクトル解析』培風館
- 予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」"【大学数学】div(発散)の意味【ベクトル解析】" Youtube <https://youtu.be/ZS51xsn7onA>(参照日:2021年8月24日)