電気回路

回路網のタイセット解析・基本タイセット方程式の導出【グラフ理論】[例題つき]

2021年12月4日

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本記事の内容

本記事では、タイセット解析基本タイセット方程式を用いた回路網の表現について解説しています。

  • タイセットとは
  • 基本タイセット行列
  • 基本タイセット方程式

タイセット・基本タイセット

ここでは、基本的な用語の確認を行ったのち、基本タイセットの求め方について説明を行います。

用語の確認

木(tree)

全ての節点を通り、かつループを持たない枝の集合

補木(co-tree)

木に含まれない枝の集合

ループ(loop)

ある節点から枝を経由して元の節点に戻る閉路

メッシュ(mesh)

ループのうち、内部に枝を含まないもの

下図にグラフの例を示します。

ループ \(\{1,3,4,2\}\) は内部に枝を含まないのでメッシュです。

それに対して、ループ \(\{1,5,6,4,2\}\) は内部に枝 \(3\) を含むため、メッシュではありません。

基本タイセットの求め方

基本タイセット(fundamental tieset)

補木の枝を1本だけ含み、それ以外は木の枝となるループ。

枝の数を \(b\), 節点の数を \(n\) としたとき、基本タイセットは \(b-(n-1)\) 個できる。

枝の数を \(b\), 節点の数を \(n\) としたとき、木は \(n-1\) 本の枝で構成されます。よって、補木の枝の本数 \(\mu\) は、\(\mu = b-(n-1)\) となります。また、基本タイセットは各補木について定められるので、基本タイセットの数は \(\mu\) となります。

具体例として、下図のグラフの基本タイセットを求めてみましょう。

木は \(\{1,2,3,6\}\) を取ります。補木を1本だけ含むようなループを考えると、ループ \(\{1,2,3,4\}\), \(\{3,5,6\}\) が基本タイセットになることが分かります。ただし、ループの向きは、補木の枝を基準にとります。

基本カットセットは、の枝を一本だけ含み、それ以外は補木となるカットセットのことで、木の各枝に対して定義されるものでした。それに対して、基本タイセットは、補木の各枝に対して定義されます。

電気回路のタイセット解析

電気回路をグラフで表現し、基本カットセットを用いて解析してみましょう。本節では具体例として、以下の電気回路を用います。

この回路のグラフは下図のようになります。

ここで、電圧源 \(e_1\) は、抵抗 \(R_1\) の枝とまとめていることに注意してください。

基本タイセット行列

基本タイセット行列(fundamental tieset matrix)は、基本タイセットと枝の関係を表す行列です。 基本タイセットの数を \(\mu\)、枝の数を \(b\) とすると、基本タイセット行列 \(\bm{B}\) は \(\mu\times b\) の行列になり、要素 \(b_{ij} (1\leq i \leq \mu, 1\leq j\leq b)\) は以下のように決定されます。

基本タイセット行列 \(\bm{B}\)
$$ b_{ij} = \left\{ \begin{align} 1 \hspace{5mm} & 枝\,j\,がタイセット\,i\,と同じ向き \\ -1 \hspace{5mm} & 枝\,j\,がタイセット\,i\,と逆向き \\ 0 \hspace{5mm} & 枝\,j\,がタイセット\,i\,に含まれない \end{align} \right. $$

ただし、ループの向きは、補木の枝を基準にとります。


具体的な回路で見ていきましょう。

枝集合 \(\{1,2\}\) を木に取ります。このとき、基本タイセットは \(\{1,3\}, \{1,2,4\} \) の2つです。

一つ目の基本タイセット \(\{1,3\}\) について、枝 \(1,3\) の向きはいずれもループの向きに等しく、枝 \(2,4\) はループに含まれません。したがって、基本タイセット行列 \(\bm{Q}\) の \(1\) 行目は、\([1,0,1,0]\) となります。同様に、基本タイセット \(\{1,2,4\}\) について考えれば、基本タイセット行列 \(\bm{B}\) は以下で表されます。

$$ \begin{align} \bm{B} &= \left[ \begin{array}{cc|cc} 1 & \cdot & 1 & \cdot \\ 1 & 1 & \cdot & 1 \end{array} \right] \\ &= \left[ \begin{array}{c|c} \bm{B}_t & \bm{1}_l \end{array} \right] \end{align} $$

ここで、 \(\bm{B}_t\) は、基本タイセット行列の木の枝に関する行列で、その大きさは \(\mu \times \rho\) となります。ただし、木の枝の本数を \(\rho=n-1\) としました。また、\(\bm{1}_l\) は \(\mu\) 次の単位行列です。簡単のため、\(0\) は \(\cdot\) で表しました。

添え字の \(l\) は、補木の枝(link)を意味します。

電圧則

各枝の電圧は、ベクトルの形式で以下のように表します。

$$ \bm{v} = [v_1,v_2,...,v_b]^\TT $$

このとき、電圧則は以下で表されます。

電圧則
$$ \bm{B}\bm{v} = \bm{0} $$

タイセット解析では、下図のように、すべての枝に電圧源が直列接続されていると考えます。

このとき、各枝の電圧源ベクトルを \(\bm{e} = [e_1,e_2,...,e_b]^\TT\) とすることで、電圧則は改めて以下で表されます。

電圧則(各枝に電圧源を想定した場合)
$$ \bm{B}\bm{v} = \bm{B}\bm{e} =:\bm{E}_s $$

ただし、\(\bm{E}_s\) はタイセット電圧源ベクトルです。


具体例で確認してみましょう。

\(\bm{B}\bm{v}\) を計算すると、

$$ \bm{B}\bm{v} = \left[ \begin{array}{cccc} 1 & \cdot & 1 & \cdot \\ 1 & 1 & \cdot & 1 \end{array} \right] \left[ \begin{array}{c} v_1 \\ v_2 \\ v_3 \\ v_4 \end{array} \right] = \left[ \begin{array}{c} v_1+v_3 \\ v_1+v_2+v_4 \end{array} \right] $$

\(\bm{E}_s=[e,e]^\TT\) なので、\(\bm{B}\bm{v}=\bm{E}_s\) の各成分は、電圧則になっていることが分かります。

電流則

枝電流ベクトル \(\bm{i}\) と補木の枝電流ベクトル \(\bm{i}_l\) を以下のように定義します。

$$ \bm{i} = [i_{1},i_{2},...,i_{b}]^\TT $$
$$ \bm{i}_l = [i_{\rho+1},i_{\rho+2},...,i_{b}]^\TT $$

このとき、電流則は以下で表されます。

電流則
$$ \bm{i} = \bm{B}^\TT\bm{i}_l $$

具体例で確認してみましょう。 \(\bm{B}^\TT\bm{i}_l\) を計算すると、

$$ \bm{B}^\TT\bm{i}_l = \left[ \begin{array}{cc} 1 & 1 \\ \cdot & 1 \\ 1 & \cdot \\ \cdot & 1 \end{array} \right] \left[ \begin{array}{c} i_3 \\ i_4 \end{array} \right] = \left[ \begin{array}{c} i_3+i_4 \\ i_4 \\ i_3 \\ i_4 \end{array} \right] $$

となり、\(\bm{i} = \bm{B}^\TT\bm{i}_l\) の各成分は、電流則になっていることが分かります。

基本タイセット方程式

枝 \(k\) のインピーダンスを \(Z_k\) として、インピーダンス行列 \(\bm{Z}\) を以下で定義します。

$$ \bm{Z} = \mathrm{diag}(Z_1,Z_2,...,Z_b) $$

このとき、オームの法則は \(\bm{v} = \bm{Z}\bm{i}\) で表されます。以上より、オームの法則・電圧則・電流則を適用して、以下が得られます。

$$ \begin{align} \bm{B}\bm{v} &= \bm{B}\bm{Z}\bm{i} \\ &= \bm{B}\bm{Z}\bm{B}^\TT\bm{i}_l \\ &= \bm{E}_s \end{align} $$

したがって、以下の基本タイセット方程式が得られます。

基本タイセット方程式
$$ \bm{B}\bm{Z}\bm{B}^\TT\bm{i}_l = \bm{E}_s $$

例題

下図の回路について、木を \(\{1,2,3\}\) にとり、基本タイセット行列・基本カットセット方程式を求めてみましょう。


基本タイセットは \(\{1,4\}, \{3,5\}, \{1,2,3,6\}\) の3つで、基本タイセット行列 \(\bm{B}\) は以下で与えられます。

$$ \bm{B} = \left[ \begin{array}{ccc|ccc} 1 & \cdot & \cdot & 1 & \cdot & \cdot \\ \cdot & \cdot & -1 & \cdot & 1 & \cdot \\ -1 & -1 & -1 & \cdot & \cdot & 1 \end{array} \right] $$

タイセット電圧源ベクトル \(\bm{E}_s\) は以下で与えられます。

$$ \bm{E}_s = [e,0,-e]^\TT $$

インピーダンス行列 \(\bm{Z} = \mathrm{diag}(R_1,R_2,...,R_6)\) を用いて、\(\bm{B}\bm{Z}\bm{B}^\TT\) を計算すると

$$ \bm{B}\bm{Z}\bm{B}^\TT = \left[ \begin{array}{ccc} R_1+R_4 & 0 & -R_1 \\ 0 & R_3+R_5 & R_3 \\ -R_1 & R_3 & R_1+R_2+R_3+R_6 \end{array} \right] $$

したがって、基本タイセット方程式は以下になります。

$$ \left[ \begin{array}{ccc} R_1+R_4 & 0 & -R_1 \\ 0 & R_3+R_5 & R_3 \\ -R_1 & R_3 & R_1+R_2+R_3+R_6 \end{array} \right] \left[ \begin{array}{c} i_4 \\ i_5 \\ i_6 \end{array} \right] = \left[ \begin{array}{c} e \\ 0 \\ -e \end{array} \right] $$

参考文献

  • 奥村浩士(2011)『電気回路理論』朝倉書店

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