半導体工学

バイポーラトランジスタの動作原理[バンド図で解説]

2021年11月19日

当サイトでは、第三者配信の広告サービス(Googleアドセンス)を利用しております。

本記事の内容

本記事では、バイポーラトランジスタの動作原理について解説しています。

  • npn型・pnp型の構成
  • エネルギーバンド図

バイポーラトランジスタ

バイポーラトランジスタ(bipolar junction transistor: BJT)は、pn接合が背中合わせに接続されたトランジスタです。

そもそもトランジスタとは、小さな電気信号を増幅させたり、スイッチのON/OFFを切り替える用途で使われる素子です。

バイポーラトランジスタは、npn型・pnp型の2種類があります。

上図にnpn型とpnp型のバイポーラトランジスタの記号を示します。

Bはベース(base)、Cはコレクタ(collector)、Eはエミッタ(emitter)と呼ばれます。

記号の矢印は、電流の流れる向きを表しています。

npnトランジスタ

ここでは、npnトランジスタの構成・バンド図・電流や電圧の特性について解説します。

npn型の構成・回路図

npnトランジスタの構成と回路図を示します。

ベースのp型の厚みは、十分薄く設定されています。

正確に言うと、キャリア(ここでは電子)の拡散長より十分短く設定されている、ということになります。

拡散長は、半導体に注入された少数キャリアが、多数キャリアと再結合して、その数が \(1/e\) に減少するまでの距離として定義されます。簡潔に言うと、少数キャリアが再結合するまでに進める距離、ということになります。

npnトランジスタは、エミッタ接合に順バイアスコレクタ接合に逆バイアスをかけて動作させます。

順バイアスはp側に \(+\) の電圧、逆バイアスは \(-\) の電圧をかけることを意味します。詳しくは、 n型・p型・真性半導体に関する記事で解説しています。

npn型のバンド図

エネルギーバンド図で動作原理を確認しましょう。

左図は電圧を印加していないときのバンド図です。

このとき、フェルミ準位 \(E_f\) が等しくなっているのがわかります。

一方、右側はエミッタ接合に順バイアス、コレクタ接合に逆バイアスをかけた時のバンド図です。

ベースの少数キャリアである電子が、エミッタ側から流入しているのがわかります。

流入した電子の一部は正孔と再結合し、ベース電流 \(i_\mathrm{B}\) を構成します。

しかし、ベースは薄く設定されているため、大部分はベースを通過して、逆バイアスが印加されているコレクタ接合に到達します。

コレクタ接合に到達した電子は、坂を下るようにコレクタへドリフトし、コレクタ電流 \(i_\mathrm{C}\) を構成します。

npn型の特性

npnトランジスタにおける電流や電圧の特性について解説します。

エミッタからベースへ流入する電子は、エミッタ接合の順バイアス \(v_{\mathrm{BE}}\) に依存し、pn接合ダイオードと同じように以下の式で表されます。

エミッタ電流 \(i_\mathrm{E}-\) ベース・エミッタ間電圧 \(v_{\mathrm{BE}}\) の関係式
$$ i_\mathrm{E}=I_\mathrm{S} \exp{\left(\frac{v_{\mathrm{BE}}}{V_\mathrm{T}}\right)}\label{eq:1}\tag{1} $$

ここで、\(V_\mathrm{T}\) は熱電圧で、\(e\) を電気素量、\(k\) をボルツマン定数、\(T\) を絶対温度として、\(V_\mathrm{T} = kT/q\)で表されます。また、\(I_\mathrm{S}\) は逆方向飽和電流です。

熱電圧は、室温で \(25\,\mathrm{mV}\) となります。

電流増幅率 \(\alpha\)(current amplification factor)は、エミッタ電流 \(i_\mathrm{E}\) に対するコレクタ電流 \(i_\mathrm{C}\) で定義されます。すなわち、

電流増幅率 \(\alpha\)
$$ \alpha = \frac{i_\mathrm{C}}{i_\mathrm{E}}\label{eq:2}\tag{2} $$

で表されます。このとき、\(\alpha<1\) を満たします。

前述のとおり、エミッタから流入した電子の大部分がコレクタ側に流れるので、\(\alpha\) は \(1\) に近く、通常は \(0.95\sim 0.99\) 程度になります。

また、電流則より

$$ i_\mathrm{E} = i_\mathrm{B} + i_\mathrm{C} $$

を満たすことから、ベース電流 \(i_\mathrm{B}\) とコレクタ電流 \(i_\mathrm{C}\) は以下の関係で表されます。

コレクタ電流 \(i_\mathrm{C}-\)ベース電流 \(i_\mathrm{B}\) の関係式
$$ i_\mathrm{C} = \frac{\alpha}{1-\alpha}i_\mathrm{B} =: h_{fe}i_\mathrm{B}\label{eq:3}\tag{3} $$

ここで、\(h_{fe}\) はエミッタ接地電流増幅率を表します。

\(\alpha\) はベース接地電流増幅率に相当します。

pnpトランジスタ

ここでは、pnpトランジスタの構成・バンド図について解説します。

電流や電圧の特性に関しては、npn型と対応しているので、ここでは省略します。

pnp型の構成・回路図

pnpトランジスタの構成と回路図を示します。

npn型と同様、ベースのn型の厚みは、十分薄く設定されています。

動作時は、エミッタ接合に順バイアスコレクタ接合に逆バイアスをかけます。

これはnpn型と同様ですが、n型とp型の組み合わせが逆になっているので、電圧の向きは逆になります。

pnp型のバンド図

エネルギーバンド図で動作原理を確認しましょう。

左図は電圧を印加していないときのバンド図です。

右側はエミッタ接合に順バイアス、コレクタ接合に逆バイアスをかけた時のバンド図です。

ベースの少数キャリアである正孔が、エミッタ側から流入しているのがわかります。

流入した正孔の一部は電子と再結合し、ベース電流 \(i_\mathrm{B}\) を構成します。

しかし、ベースは薄く設定されているため、大部分はベースを通過して、逆バイアスが印加されているコレクタ接合に到達します。

コレクタ接合に到達した正孔は、坂を下るようにコレクタへドリフトし、コレクタ電流 \(i_\mathrm{C}\) を構成します。

参考文献

  • 松波弘之(1999)『半導体工学(第2版)』朝倉書店

-半導体工学