本記事の内容
本記事では、n型半導体・p型半導体・真性半導体について解説しています。
- 材料・バンド図
- キャリア密度
- フェルミ準位

目次
真性半導体
真性半導体の材料
真性半導体(intrinsic semiconductor)は、不純物を含まない半導体のことです。
材料として、\(\mathrm{Si}\)(シリコン、ケイ素)がよく用いられます。

純粋な \(\mathrm{Si}\) の結晶は、上図のように、4つの価電子によって共有結合することで構成されています。
図では平面に描かれていますが、実際には正四面体構造が重なって結晶を構成しています。
真性半導体のバンド図

真性半導体のバンド図は上図のように表されます。
バンド図は、縦軸に電子のエネルギーを取ります。
電子の取りうるエネルギーはとびとびの値で、帯のように表すことができるため、バンド図と呼ばれます。
半導体の禁制帯幅は、絶縁体のそれと比べて小さくなっています。
そのため、価電子中の一部の電子が、熱エネルギーによって伝導帯へ励起されます。
元々電子のあったところには空白ができ、これを正孔(hole)といいます。
”正”孔と呼ばれるのは、相対的に正の電荷として扱うことができるためです。
なお、電子と正孔が同時に生成されることから、電子・正孔対生成(electron-hole pair generation)といいます。
n型半導体
n型半導体の材料
n型半導体は、純粋な \(\mathrm{Si}\) の結晶に、価電子を \(5\) つ持つ \(\mathrm{V} \) 族元素をドーピングした半導体です。

不純物を加えたことで、共有結合に使われない余分な電子が現れます。
この電子には不純物の正の電荷との間にクーロン力が働きますが、その力は共有結合と比べて小さく、室温程度の熱エネルギーで自由に動き回ることができます。
不純物は半導体に電子を提供したので、ドナー(donor)と呼びます。
臓器提供意思表示カードは「ドナーカード(donor card)」とも呼ばれます。
なお、電子を失ったドナーは、正に帯電します。
負の電荷が電気伝導に寄与するので、その符号の頭文字から n型(negative)と名付けられています。
n型半導体のバンド図

n型半導体のバンド図は上図のように表されます。
ドナーのエネルギー準位は伝導帯に近く、室温でほぼ全ての電子が励起します。
真性半導体のときと同様、熱エネルギーによって電子正孔対が生成されますが、温度が高温でない限り、その数はわずかです。
半導体において、電気伝導に寄与する荷電粒子は電子と正孔の2つですが、n型半導体では、電子が多数存在し、正孔はわずかにしか存在しません。
したがって、n型半導体における電子を多数キャリア(majority carrier)、正孔を少数キャリア(minority carrier)といいます。
p型半導体
p型半導体の材料
p型半導体は、純粋な \(\mathrm{Si}\) の結晶に、価電子を \(3\) つ持つ \(\mathrm{III} \) 族元素をドーピングした半導体です。

価電子が3つなので、\(\mathrm{Si}\) と共有結合するには電子が1個不足しています。
その結果、正孔が現れます。
不純物は \(\mathrm{Si}\) から電子を受け取ったので、アクセプタ(acceptor)と呼ばれます。
なお、電子を受け取ったアクセプタは、正に帯電します。
正の電荷が電気伝導に寄与するので、その符号の頭文字から p型(positive)と名付けられています。
p型半導体のバンド図

p型半導体のバンド図は上図のように表されます。
バンド図は、上部に行くほど電子のエネルギーが高くなるように縦軸をとっています。
そのため、電荷の符号が逆の正孔のエネルギーは、下部に行くほどエネルギーが高くなります。
アクセプタのエネルギー準位は価電子帯に近く、室温でほぼ全ての正孔が励起します。
真性半導体のときと同様、熱エネルギーによって電子正孔対が生成されますが、温度が高温でない限り、その数はわずかです。
p型半導体における多数キャリアは正孔、少数キャリアは電子になります。
熱平衡時のキャリア密度の関係式
熱平衡状態における各キャリア密度について考えてみましょう。
電子密度を \(n\), 正孔密度を \(p\) とします。

価電子帯にある電子が熱エネルギーによって伝導帯に励起する割合(電子正孔対の生成割合)は、励起できる電子が無数にあり、占有できるエネルギー準位が伝導帯に無数にあることから、キャリア密度 \(n,p\) に依存せず、温度 \(T\) のみに依存すると考えることができます。
一方、その逆の過程、すなわち、伝導帯の電子がエネルギーを放出して、正孔と再結合する割合(再結合確率)は、キャリア密度が多ければその確率も大きくなるため、\(n,p\) に比例すると考えることができます。
電子正孔対の生成割合を \(g(T)\)、再結合確率を \(r(T)\) とすると、正孔密度 \(p\) の時間変化について、以下が成り立ちます。
熱平衡状態では \(dp/dt = 0\) なので、
温度 \(T\) を固定することで、
が得られます。特に真性半導体のキャリア密度 \(n,p\) について、\(n=p:=n_i(T)\) とすると、以下が成立します。
ただし、\(n_i(T)\) は真性キャリア密度と呼ばれます。
以上の議論から、n型(あるいはp型)半導体の各キャリア密度 \(n,p\) について、
が成り立ちます。式 \eqref{eq:1} は、熱平衡状態において、多数キャリア密度と少数キャリア密度の積が一定になることを示しています。
例えば、n型半導体のドナー密度を \(N_d\) とおいたとき、少数キャリア密度 \(p\) は、\(n\sim N_d\) と近似することで、
と表されます。
多数キャリア密度の導出
ここでは、n型およびp型半導体の多数キャリア密度を、統計物理学の知識を用いながら導出します。
まず、n型半導体における多数キャリア密度 \(n\) を導出します。

一般に、単位体積、単位エネルギーあたりの電子数 \(n(E)\) は、状態密度 \(Z(E)\) とフェルミ・ディラック分布関数 \(f(E)\) を用いて
で表されます。
状態密度 \(Z(E)\) は、単位体積、単位エネルギー当たりの電子の量子状態数で、以下で与えられます。
ただし、\(m_e\) は電子の有効質量、\(h\) はプランク定数です。
フェルミ・ディラック分布関数 \(f(E)\) は、フェルミ・ディラック統計に従う粒子系において、そのエネルギー状態を占有する確率を表し、以下で与えられます。
ただし、\(E_f\) はフェルミ準位(後述)、\(k\) はボルツマン定数です。
映画館や教室の座席に例えると、\(Z(E)\) は空いている座席、\(f(E)\) はそこに座りたいと思っている人の割合に相当し、実際の座席の分布 \(n(E)\) はそれらの積で与えられます。
n型半導体において、電気伝導に寄与する電子は伝導帯の下端におけるエネルギー準位 \(E_c\) より上なので、\(E_c\) から \(+\infty\) までのエネルギー領域で電子密度 \(n(E)\) を積分することでキャリア密度が得られます。
\(E\geq E_c\) における状態密度 \(Z_c(E)\) は、改めて
で与えられます。したがって、求めたいキャリア密度 \(n\) は
で与えられ、 \((E-E_f) \gg kT\) の近似を用いて積分を計算すると(補足を参照)、
が得られます。ただし、\(N_c\) は伝導帯における有効状態密度で
で表されます。
次に、p型半導体における正孔密度 \(p\) を求めてみましょう。

p型半導体において、電気伝導に寄与する正孔は価電子帯の上端におけるエネルギー準位 \(E_v\) より下なので、\(-\infty\) から \(E_v\) までのエネルギー領域で正孔密度 \(p(E)\) を積分することでキャリア密度が得られます。
\(E\leq E_v\) における状態密度 \(Z_v(E)\) は、改めて
で与えられます。ただし、\(m_h\) は正孔の有効質量です。
電子の占有確率と正孔の占有確率の和は \(1\) になることに留意して、求めるキャリア密度は
で与えられます。\(-(E-E_f) \gg kT\) の近似を用いて積分を計算すると、
が得られます。ただし、\(N_v\) は価電子帯における有効状態密度で
で表されます。
フェルミ準位と温度依存性
フェルミ準位は、電子の占有確率が \(1/2\) となるエネルギー準位を表します。
実際、フェルミ・ディラックの分布関数より
となります。
半導体のフェルミ準位は、以下の半導体の電気的中性条件から求められます。
ただし、\(N_a^{-}, N_d^{+}\) はイオン化したアクセプタ密度およびイオン化したドナー密度を表し、それぞれ負と正に帯電しています。
真性半導体のフェルミ準位
真性半導体は不純物を含まないため、\( N_a^{-}=N_d^{+}=0 \) です。
式 \eqref{eq:4} に、式 \eqref{eq:2},\eqref{eq:3} を代入して
\(N_v \sim N_c\) が成立すれば、
となります。
したがって、真性半導体のフェルミ準位は禁制帯幅の中央に位置することが分かります。
n型半導体のフェルミ準位
n型半導体では、\(n\gg p\) が成立し、室温程度でドナーはほぼすべてイオン化していると考えると \(n\sim N_d^{+}\) が成立します。なお、アクセプタはドーピングされていないものとします。
以上の近似を用いて、式 \eqref{eq:2}~\eqref{eq:4} より
したがって、n型半導体のフェルミ準位は伝導帯の下に位置し、温度上昇とともに下がります。
さらに温度が上昇すると、熱励起により電子正孔対が生成され、真性半導体に近づきます。
すなわち、フェルミ準位は禁制帯幅の中央に近づきます。
p型半導体のフェルミ準位
p型半導体では、\(p\gg n\) が成立し、室温程度でアクセプタはほぼすべてイオン化していると考えると \(p\sim N_a^{-}\) が成立します。なお、ドナーはドーピングされていないものとします。
以上の近似を用いて、式 \eqref{eq:2}~\eqref{eq:4} より
したがって、p型半導体のフェルミ準位は価電子帯の上に位置し、温度上昇とともに上がります。
さらに温度が上昇すると、熱励起により電子正孔対が生成され、真性半導体に近づきます。
すなわち、フェルミ準位は禁制帯幅の中央に近づきます。
補足
多数キャリア密度の導出における積分計算を行います。
一部、ガウス関数の積分計算を用います。
\(E-E_f \gg kT\) の近似が成り立つとき、占有確率 \(f(E)\) は
と表せます。簡単のため、状態密度 \(Z(E)\)の定数部を \(A\) とおくと、キャリア密度 \(n\) は
ここで、\(E' = E - E_c\) と変数変換を行うと、
さらに、\(x=E'/kT\) と変数変換をすると、
ここで、ガンマ関数 \(\Gamma(s)\) について
が成り立ちます。したがって、
参考文献
- 松波弘之(1999)『半導体工学(第2版)』朝倉書店
- 高橋清・山田陽一(2013)『半導体工学(第3版)ー半導体物性の基礎ー』森北出版