電気回路

フェーザ表示と交流回路の解析[例題つき]【電気回路】

2022年9月11日

本記事の内容

本記事では、交流信号の表現方法であるフェーザについて解説しています。

  • フェーザ表示・フェーザ図
  • インピーダンス
  • 交流RLC回路

フェーザ

フェーザ表示・フェーザ図

交流電圧のフェーザ表示を導入します。

振幅 \(V\), 角周波数 \(\omega\) の交流電圧を

$$ v(t)=V\sin{(\omega t + \theta)} $$

と表します。ここで、\(\theta\) は初期位相です。オイラーの公式より、

$$ \ee^{\jj(\omega t+\theta)} = \cos{(\omega t+\theta)}+\jj\sin{(\omega t+\theta)} $$

が成立するので、

$$ v(t)=\mathrm{Im}\left[V\ee^{\jj(\omega t+\theta)}\right] $$

と表すことができます。ただし、\(\mathrm{Im}[\cdot]\) は複素数の虚部を取る操作です。

ここで、大きさ \(V\)、位相 \(\theta\) の

フェーザ
$$ \dot{V}=V\ee^{\jj\theta} = V\angle \theta $$

なる複素数 \(\dot{V}\) を定義すると、電圧の瞬時値 \(v(t)\) は

$$ v(t)=\mathrm{Im}\left[\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] \label{eq:1}\tag{1} $$

と表すことができます。この複素数 \(\dot{V}\) をフェーザ(phasor)あるいは複素振幅といいます。

\(V\angle\theta\) は複素数の振幅 \(V\) と位相 \(\theta\) に着目した表現で、極形式フェーザ形式などと呼ばれます。

フェーザ図(左)、実時間波形への変換(右)

フェーザ \(\dot{V}\) は正弦波信号の

  • 振幅 \(V\)
  • 位相 \(\theta\)

の2つで一意に定まり、\(\ee^{\jj\omega t}\) をかけて虚部を取ることで、瞬時値 \(v(t)\) に変換されます。

また、\(\dot{V}\) は複素数なので、複素平面上でベクトルとして表現することができ、複素平面上にプロットしたものをフェーザ図といいます。

フェーザから瞬時値への変換は4通り

1.1節では、\(\mathrm{sin}\) 波で表される電圧のフェーザ表示を考え、式 \eqref{eq:1} のようにフェーザ \(\dot{V}\) から瞬時値 \(v(t)\) へ変換しました。

一方で、交流電圧を \(\mathrm{cos}\) 波で表すこともあります。

その場合の瞬時値への変換について見てみましょう。

電圧 \(v(t)\) の瞬時値が

$$ v(t)=V\cos{(\omega t + \theta)} $$

で表されるとき、フェーザ \(\dot{V}=V\ee^{\jj\theta}\) を用いて

$$ v(t)=\mathrm{Re}\left[\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] $$

と表すことができます。ただし、\(\mathrm{Re}[\cdot]\) は複素数の実部を取る操作です。

このように、\(\mathrm{cos}\) 波の場合には、実部を取ることによって瞬時値へ変換できます。

複素数の実部を取るか、あるいは虚部を取るかの2通りに加えて、フェーザの絶対値を交流波形の振幅(波高値)で定義するか、あるいは実効値で定義するかについても自由度があります。

よって、フェーザ \(\dot{V}=V\ee^{\jj\theta}\) の瞬時値 \(v(t)\) への変換方法には、以下の4通りが存在します。

フェーザから瞬時値への \(4\) 通りの変換方法
$$ \begin{cases} v(t)=\mathrm{Re}\left[\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] = V\cos{(\omega t + \theta)}&(\mathrm{cos}\text{系, 最大値フェーザ}) \\ v(t)=\mathrm{Im}\left[\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] = V\sin{(\omega t + \theta)}&(\mathrm{sin}\text{系, 最大値フェーザ}) \\ v(t)=\mathrm{Re}\left[\sqrt{2}\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] = \sqrt{2}V\cos{(\omega t + \theta)}&(\mathrm{cos}\text{系, 実効値フェーザ}) \\ v(t)=\mathrm{Im}\left[\sqrt{2}\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] = \sqrt{2}V\sin{(\omega t + \theta)}&(\mathrm{sin}\text{系, 実効値フェーザ}) \end{cases} $$

解析する上では、いずれかの定義に統一しておく必要があります。

電力の分野では、実効値フェーザを用いることが多いです。対して、電磁波解析の分野では、\(\mathrm{cos}\) 系の最大値フェーザを用いるのが普通のようです[2]。

本記事ではフェーザの定義の違いを明確にするため、「\(\mathrm{cos}\) 系の実効値フェーザ」のように記載しますが、一般的な呼び方ではありません。

電圧則・電流則

電圧則・電流則はフェーザに対しても成立します。

例えば、下図のループについて、フェーザに関する電圧則

フェーザに関する電圧則
$$ \dot{V}_1 + \dot{V}_2 + \dot{V}_3 = 0 $$

が成立します。


上式が成り立つことを確認してみましょう。各素子の電圧の瞬時値に関して

$$ v_1(t) + v_2(t) + v_3(t) = 0 $$

が成り立ちます。それぞれフェーザを用いて表現すると

$$ \mathrm{Re}\left[\dot{V}_1\ee^{\jj\omega t}\right] + \mathrm{Re}\left[\dot{V}_2\ee^{\jj\omega t}\right] + \mathrm{Re}\left[\dot{V}_3\ee^{\jj\omega t}\right] = 0 $$

を得ます。一般の複素数 \(z_1,z_2\) について

$$ \mathrm{Re}[z_1] + \mathrm{Re}[z_2] = \mathrm{Re}[z_1+z_2] $$

が成り立つので、

$$ \mathrm{Re}\left[\dot{V}_1\ee^{\jj\omega t}+\dot{V}_2\ee^{\jj\omega t}+\dot{V}_3\ee^{\jj\omega t}\right] = 0 $$
$$ \therefore\hspace{5mm} \dot{V}_1 + \dot{V}_2 + \dot{V}_3 = 0 $$

を得ます。よって、電圧則がフェーザに関しても成立することが示されました。

同様にして、任意の節点に流出入する電流のフェーザの和が \(0\) になることを示すことができます。

フェーザに関する電流則
$$ \dot{I}_1 + \dot{I}_2 + \dot{I}_3 = 0 $$

回路素子とフェーザ表示

抵抗 \(R\), インダクタ \(L\), コンデンサ \(C\) の電圧と電流の関係をフェーザで表現してみましょう。

特に、インダクタ \(L\), コンデンサ \(C\) は時間領域における微分・積分操作が、\(\jj\omega,1/\jj\omega\) の積として表現されるという重要な性質があります。

抵抗

抵抗 \(R\) にかかる電圧, 電流を \(v(t),i(t)\) とすると、

$$ v(t)=Ri(t) $$

と表されます。電圧, 電流のフェーザを \(\dot{V},\dot{I}\) とすると

$$ \begin{align} \mathrm{Re}\left[\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] &= R\cdot\mathrm{Re}\left[\dot{I}\ee^{\jj\omega t}\right] \\ &= \mathrm{Re}\left[R\dot{I}\ee^{\jj\omega t}\right] \end{align} $$

より、

抵抗
$$ \dot{V}=R\dot{I} $$

が成立します。

よって、フェーザも時間領域における表現と同様に、オームの法則が成り立ちます。

\(R\) は実数なので、抵抗にかかる電圧と電流は同位相になります。

\(\dot{V},\dot{I}\) の位相が揃っているので、それぞれのフェーザ図は平行になります。

インダクタ

インダクタ \(L\) にかかる電圧, 電流を \(v(t),i(t)\) とすると、

$$ v(t)=L\dfrac{\dd i}{\dd t} $$

と表されます。電圧, 電流のフェーザを \(\dot{V},\dot{I}\) とすると

$$ \begin{align} \mathrm{Re}\left[\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] &= L\dfrac{\dd}{\dd t}\mathrm{Re}\left[\dot{I}\ee^{\jj\omega t}\right] \\ &= \mathrm{Re}\left[L\dfrac{\dd}{\dd t}\dot{I}\ee^{\jj\omega t}\right] \\ &= \mathrm{Re}\left[\jj\omega L\dot{I}\ee^{\jj\omega t}\right] \end{align} $$

より、

インダクタ
$$ \dot{V}=\jj\omega L\dot{I} $$

が成立します。

形式的にインダクタを \(\jj\omega L\) の抵抗成分を持つ素子として解釈すると、オームの法則が成立することが分かります。

インダクタ \(L\) のインピーダンスは \(\jj\omega L\)

この抵抗成分をインダクタのインピーダンス(impedance)と呼びます。

電圧と電流の位相について考えると、電流 \(\dot{I}\) に \(\jj=\ee^{\jj\frac{\pi}{2}}\) がかけられているので、電圧 \(\dot{V}\) に対して電流 \(\dot{I}\) \(90^\circ\) 遅れます。

したがって、\(\dot{V},\dot{I}\) はフェーザ図上で直交します。

コンデンサ

コンデンサ \(C\) にかかる電圧, 電流を \(v(t),i(t)\) とすると、

$$ v(t)=\dfrac{1}{C}\int i(t)\dd t $$

と表されます。電圧, 電流のフェーザを \(\dot{V},\dot{I}\) とすると

$$ \begin{align} \mathrm{Re}\left[\dot{V}\ee^{\jj\omega t}\right] &= \dfrac{1}{C}\int\mathrm{Re}\left[\dot{I}\ee^{\jj\omega t}\right]\,\dd t \\ &= \mathrm{Re}\left[\dfrac{\dot{I}}{\jj\omega C}\ee^{\jj\omega t}\right] \end{align} $$

より、

コンデンサ
$$ \dot{V}=\dfrac{\dot{I}}{\jj\omega C} $$

が成立します。

この式から、形式的にコンデンサを \(\dfrac{1}{\jj\omega C}\) の抵抗成分を持つ素子として解釈することができます。

コンデンサ \(C\) のインピーダンスは \(1/\jj\omega C\)

インダクタと同様に、\(\dfrac{1}{\jj\omega C}\) はコンデンサのインピーダンスと呼ばれます。

電圧と電流の位相について考えると、電流 \(\dot{I}\) に \(1/\jj=\ee^{-\jj\frac{\pi}{2}}\) がかけられているので、電圧 \(\dot{V}\) に対して電流 \(\dot{I}\) \(90^\circ\) 進みます。

インピーダンス・アドミタンス

下図のように、抵抗・インダクタ・コンデンサを含む回路を考えます。

2端子間の電圧フェーザが \(\dot{V}\), 電流フェーザが \(\dot{I}\) のとき、その比 \(\dot{Z}\) をインピーダンス(impedance)と呼び、単位は通常の抵抗と同じくオーム \(\mathrm{\Omega}\) です。

インピーダンス
$$ \dot{Z}=\dfrac{\dot{V}}{\dot{I}} $$

impede は「妨げる、邪魔する」という意味の動詞で、インピーダンスは電流の流れにくさを表します。

インピーダンス \(\dot{Z}\) はフェーザではありません。フェーザは、交流信号の振幅と位相を複素数で表したものであり、\(\ee^{\jj\omega t}\) をかけて実部(あるいは虚部)をとると瞬時値に変換されます。それに対して、インピーダンス \(\dot{Z}\) は、素子と印加する交流信号の周波数のみに依存し、時間に依らず一定です。よって、そもそも交流信号の振幅を表すものではありませんし、\(\ee^{\jj\omega t}\) をかけて実部をとるような操作には意味がないので、フェーザではありません。

具体例として、直列接続したRLC回路を考えます。

抵抗・インダクタ・コンデンサそれぞれの電圧のフェーザを \(\dot{V}_R,\dot{V}_L,\dot{V}_C\) 、電圧源のフェーザを \(\dot{E}\) とすると、電圧則より

$$ \dot{V}_R+\dot{V}_L+\dot{V}_C=\dot{E} $$

が成り立ちます。また、それぞれのインピーダンスを考えると、回路に流れる電流のフェーザを \(\dot{I}\) として

$$ \left(R+\jj\omega L+\dfrac{1}{\jj\omega C}\right)\dot{I} = \dot{E} $$

を得ます。よって、インピーダンス \(\dot{Z}\) は

$$ \dot{Z} = R+\jj\omega L+\dfrac{1}{\jj\omega C} $$

となります。

このように、インピーダンス \(\dot{Z}\) は、通常の抵抗の直列接続と同じように、各素子のインピーダンスの和として求めることができます。なお、並列接続も、通常の抵抗と同様に計算できます。

インピーダンスの逆数はアドミタンス(admittance)と呼ばれ、単位はジーメンス \(\mathrm{S}\) です。

アドミタンス
$$ \dot{Y}=\dfrac{1}{\dot{Z}} = \dfrac{\dot{I}}{\dot{V}} $$

なお、イミタンス(immittance)はインピーダンスとアドミタンスを総称したものです。インピーダンスとアドミタンスを同時に扱いたいときに使われ、次元は存在しません。

インピーダンス \(\dot{Z}=R+\jj X\) の実部 \(R\) と虚部 \(X\)はそれぞれ抵抗分・リアクタンス分(reactance)と呼ばれます。

また、アドミタンス \(\dot{Y}=G + \jj B\) の実部 \(G\) と虚部 \(B\) はそれぞれコンダクタンス分・サセプタンス分(susceptance)と呼ばれます。

例題:RLC回路

下図の回路において、電源電圧 \(e(t)=E\cos{\omega t}\) を印加したとき、以下の問題に答えてください。ただし、\(E=100\sqrt{2}\,\mathrm{V},\,\omega=10000\,\mathrm{rad/s}\) とし、フェーザは \(\mathrm{cos}\) 系の最大値フェーザを用いて回答してください。

\((1)\) 回路のインピーダンス \(\dot{Z}\) を求めてください 。

\((2)\) 回路に流れる電流のフェーザ \(\dot{I}\) および瞬時値 \(i(t)\) を求めてください。

\((3)\) 抵抗・インダクタ・コンデンサの電圧のフェーザ \(\dot{V}_R,\dot{V}_L,\dot{V}_C\) および瞬時値 \(v_R(t),v_L(t),v_C(t)\) を求めてください。

\((4)\) 抵抗・インダクタ・コンデンサの電圧のフェーザ \(\dot{V}_R,\dot{V}_L,\dot{V}_C\) のフェーザ図を描いてください。ただし、電源電圧のフェーザ \(\dot{E}\) を実軸正方向としてください。


\((1)\) 回路の全インピーダンス \(\dot{Z}\) は

$$ \begin{align} \dot{Z} &= R+\jj\omega L+\dfrac{1}{\jj\omega C} \\ &= 5+\jj 5 \\ &= 5\sqrt{2}\,\ee^{\jj\frac{\pi}{4}} \\ &= 5\sqrt{2}\angle \frac{\pi}{4} \end{align} $$

\((2)\) 電源電圧のフェーザ \(\dot{E}\) は \(\dot{E}=100\sqrt{2}\) と表せるので、電流のフェーザ \(\dot{I}\) は

$$ \dot{I}=\dfrac{\dot{E}}{\dot{Z}} = \dfrac{100\sqrt{2}}{5\sqrt{2}\,\ee^{\jj\frac{\pi}{4}}} = 20\,\ee^{-\jj\frac{\pi}{4}} $$

瞬時値 \(i(t)\) は

$$ i(t) = \mathrm{Re}\left[\dot{I}\ee^{\jj\omega t}\right] = \mathrm{Re}\left[20\ee^{\jj\left(\omega t-\frac{\pi}{4}\right)}\right] = 20\cos{\left(\omega t-\frac{\pi}{4}\right)} $$

\((3)\) 各素子の電圧のフェーザは

$$ \begin{align} &\dot{V}_R = R\dot{I} = 100\,\ee^{-\jj\frac{\pi}{4}} \\ &\dot{V}_L = \jj\omega L\dot{I} = 300\,\ee^{\jj\frac{\pi}{4}} \\ &\dot{V}_C = \dfrac{\dot{I}}{\jj\omega C} = 200\,\ee^{-\jj\frac{3\pi}{4}} \end{align} $$

\(\jj=\ee^{\jj\frac{\pi}{2}}\) として計算するのがポイントです。

各素子電圧の瞬時値は

$$ \begin{align} &v_R(t) = \mathrm{Re}\left[\dot{V}_R\ee^{\jj\omega t}\right] = 100\cos{\left(\omega t - \frac{\pi}{4}\right)} \\ &v_L(t) = \mathrm{Re}\left[\dot{V}_L\ee^{\jj\omega t}\right] = 300\cos{\left(\omega t + \frac{\pi}{4}\right)} \\ &v_C(t) = \mathrm{Re}\left[\dot{V}_C\ee^{\jj\omega t}\right] = 200\cos{\left(\omega t - \frac{3\pi}{4}\right)} \\ \end{align} $$

\((4)\) 各素子電圧のフェーザ図は下図の通りです。

参考文献

  1. 奥村浩士(2002)『エース電気回路理論入門 (エース電気・電子・情報工学シリーズ)』朝倉書店 pp.83-89
  2. 黒木修隆(2012)『電気回路 I 』オーム社 pp.50-51

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