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本記事の内容
本記事では、ミンコフスキー時空図とローレンツ変換について解説しています。
- 4次元時空
- ローレンツ変換の幾何学的解釈
- ローレンツ不変量
- ローレンツ収縮・時間の遅れ
〈関連記事〉
ローレンツ変換については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ローレンツ変換の使い方【特殊相対性理論】
4次元時空とローレンツ変換
特殊相対性理論におけるローレンツ変換は、以下で表されます。
ただし、\(\beta:=V/c, \,\gamma:=1/\sqrt{1-\beta^2}\) と定義しました。
この式で重要なのは、時間と空間座標が混合しているということです。
このことから、ミンコフスキー(Minkowski)は、空間座標 \((x,y,z)\) に時間を含めた \((x,y,z,ct)\) という座標で指定される4次元時空(spacetime)を提案しました。
\((x,y,z,t)\) でもよいですが、\(ct\) とすることで、全て長さの次元になり、記述がきれいというメリットがあります。
その空間はミンコフスキー時空と呼ばれます。
ミンコフスキー時空内の1点 \((x,y,z,ct)\) は、世界点(world point)と呼ばれ、世界点の動く軌跡は、世界線(world line)と呼ばれます。
ローレンツ不変量と距離
以下で定義される量は、ローレンツ変換に対して値を変えないローレンツ不変量になっています。
実際にローレンツ変換の式を代入することで、確かめてみましょう。
\(y,z\) に関しては、変換前後で変わらないので、\(x,t\) のみに着目して考えます。
したがって、確かにローレンツ不変量になっていることが分かります。
もし、\(s^2\) の \((ct)^2\) の項がなければ、\(s^2\) は通常の3次元ユークリッド空間の距離の2乗を表します。
このことから、\(s^2\) を4次元時空における距離の2乗と考えます。
ミンコフスキー時空図
以下では便宜上、\(w:=ct\) とします。このとき、ローレンツ変換の式は、以下のようになります。
ミンコフスキー時空図では、横軸を空間 \(x,y,z\)、縦軸を時間 \(w\) に取ります。
しかし、4次元を図示することはできないため、通常は \(x\) のみを横軸に取ります。
ここで、原点から発射した光の世界線について考えると、傾き \(\pm 1\) の直線となります。
物体は光の速度を超えないので、物体の世界線は、\(w\) 軸を回転軸とした円錐の内側を動きます。
円錐は光円錐(light-cone)と呼ばれます。
ローレンツ変換の幾何学的解釈
\(S\) 系に対して、\(x\) 軸正方向に一定の速度 \(V\) で動く \(S'\) 系の座標軸が、ミンコフスキー時空図上でどのように表されるかを考えてみましょう。
まず、\(w'\) 軸について考えます。\(w'\) 軸上では、\(x'=0\) となるので、ローレンツ変換の式より、
となり、傾き \(1/\beta\) の直線で表されることが分かります。
同様に、\(x'\) 軸上では、\(w'=0\) なので、
となり、\(x'\) 軸は傾き \(\beta\) の直線で表されることが分かります。
ミンコフスキー時空における単位格子
\(S'\) 系における単位格子(一辺の長さが \(1\) の方形)を考えます。
まず、\((x', w')=(1,0)\) となるのは、ローレンツ変換の式より
これを解いて
が得られます。
同様に、\((x', w')=(0,1)\) となるのは、ローレンツ変換の式より
これを解いて
が得られます。
これを図示すると、以下のようになります。
ユークリッド平面で描くと、それぞれの単位長さは異なって見えます。しかし、これはミンコフスキー時空における距離の定義が異なるためです。
ローレンツ収縮
\(S'\) 系に固定された物体は、その運動方向に縮んで観測されます。これをローレンツ収縮(Lorentz contraction)といいます。
ミンコフスキー時空図でローレンツ収縮を幾何学的に解釈してみましょう。
\(S'\) 系の \(x'\) 軸正方向に静止した長さ \(1\) の棒は、図の赤線で表され、時刻 \(t'\) と共に矢印の方向に進みます。
棒の長さ \(1\) は、\(S'\) 系から測定した長さです。
この棒を \(S\) 系で測定すると、その長さはいくらになるでしょうか。
\(S\) 系の時刻 \(t=0\) で棒を測定することを考えると、棒は図の緑線として観測されます。
図より、\(S\) 系の \((x,w)=(1,0)\) より短くなっていることが分かります。
具体的に端点の座標を求めると、\((x,w) = (1/\gamma,0)\) となります。
つまり、\(S\) 系から観測すると、棒の長さは \(1/\gamma\) 倍になるのです。
単位格子上の点 \((x,w)=(\gamma,\beta\gamma)\) を通り、\(w'\) 軸に平行な直線の式は $$ w=\frac{1}{\beta}(x-\gamma) + \beta\gamma $$ と表せます。\(x\) 軸との交点を求めるには、\(w=0\) を代入して $$ x=\frac{1}{\gamma} $$ を得ます。
次は逆に、\(S\) 系に固定した長さ \(1\) の棒が、\(S'\) 系からどのように観測されるかを見てみましょう。
\(S\) 系の \(x\) 軸正方向に静止した長さ \(1\) の棒は、図の赤線で表され、時刻 \(t\) と共に矢印の方向に進みます。
\(S'\) 系の時刻 \(t'=0\) で棒を測定することを考えると、棒は図の緑線として観測されます。
図より、\(S'\) 系の \((x',w')=(1,0)\) より短くなっていることが分かります。
棒の端点の \(S\) 系における座標は \((x,w)=(1,\beta)\) となります。
ローレンツ変換の式より、
となり、\(S'\) 系から測定した場合でも、棒の長さは \(1/\gamma\) 倍されることが分かります。
ローレンツ不変量 \(s^2\) を用いて考えることもできます。 $$ s^2 = x^2 - w^2 = x'^2 - w'^2 $$ ここで、\(x=1, w=\beta, w'=0\) を代入して $$ x'^2 = 1-\beta^2 $$ $$ ∴ \hspace{3mm} x' = \sqrt{1-\beta^2} = \frac{1}{\gamma} $$
時間の遅れ
\(S'\) 系の原点に固定された時計を、\(S\) 系から測定することを考えましょう。
図の赤線が、時計の世界線になります。
先ほど求めた単位格子より、\(S'\) 系における \(w'=1\) は、\(S\) 系の \(w=\gamma\) で観測されることが分かります。
したがって、動いている時計が、静止している時計に比べて遅れていることが分かります。
逆に、\(S\) 系の原点に固定された時計を、\(S'\) 系から測定することを考えましょう。
\(S\) 系から観測して \(w=1\) のときの \(S'\) 系の座標値は、緑の点線と \(w'\) 軸の交点に相当します。
交点の \(S\) 系における座標値は \((x,w) = (\beta\gamma^2, \gamma^2)\) となります。
これをローレンツ変換の式に代入して、\((x',w') = (0,\gamma)\) を得ます。
したがって、先ほどと同様に、\(S\) 系における \(w=1\) は、\(S'\) 系の \(w'=\gamma\) で観測されることが分かります。
参考文献
- 風間洋一(1997)『相対性理論入門講義』培風館